Dolce.T
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【蒼月下の薔薇園】
魔都トレスの一角に造られた城がある。
裏のテラスから一歩踏み出せば、視界に広がるように散りばめられた数多の花達。その殆どが城主の故郷である魔界から持ち込まれた、とある花で占められていた。
庭園はよく手入れされ美しく保たれており、中は少し複雑な造りになっている。少し離れた東側に建つ硝子張りの建築物。その場所は特に手を入れず、ある人物に任せていたのだが…
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「な、何なのですかあの…ッ、巨大な…!」
帰るなり苛立たしげにソファへと身を投げる城主に、メイド長が静かにティーカップにお茶を注ぐ。
「ディア様から話はお聞ききになりましたか?」
「えぇ、元凶はメフィに間違いないわ。あぁ、それにしても…!」
ティーカップを机の上へと置く際、珍しく剣の柄に触れる様子を目にとめては溜息混じりの笑いを口元に零した。
「昔から得意ではありませんものね」
「…ッ! まったくとんだ厄介者を招きこんだこと。小さければ視界に入れずに済むものをああも大きければッ…」
「こらしめて参られたのですか?」
「あたり前でしょう…!早く別の地に移ってもらわないとあの温室を壊しかねないわ」
「ふふ、頑張ってくださいまし」
「笑いごとじゃないのよテリア!」
「…そうですね。あの者があちらの薔薇園にでも移ったらと思うと、気が気でない所でしょうか」
「そうよ…。ましてあそこには大事な預かりものがあるんですからね」
「変化は未だ見られませんか?」
「…えぇ。けれど魔界では見られない現象が起きてきてるわ…」
深くソファへと身を預けると重い溜息が零れた。
よりによって…。温室の影を思い出すと未だにゾワリと身震いが走るが、一番の心配はその者が薔薇園に手を出さぬという保障がないからだ。少し冷めてしまったカップを取り、一口運んでは再び溜息を。
バルコニーに降り注ぐ蒼月の光に引かれ立ち上がるとレースのカーテンの隙間から庭園を見下ろした。
魔力高き地に根を張り、蒼月の光を糧として咲き誇る華の園。
その中でフワリ…と動く影を見つめれば苦笑を零し。
「貴方の仕事の邪魔はさせないわ…」
貴方は貴方の役目を果たすのよ。
やっと見なれた小さな影に瞳で呟きカーテンを閉じた。
風に乗った旋律を刻む声音が、薔薇園に静かに散布する。
[ダンジョン2月中旬建設予定]